作成日:2016/12/01
★★ 通勤災害になる? ★★
「自転車通勤の従業員が仕事帰りに通勤経路を200メートルほど外れたところ
にあるドラッグストアで牛乳を購入、その後店の駐車場で転んでケガをした
が・・・」
運悪く、顔面を傷つけるケガとなり、しばらく仕事を休むことになりました。
通勤災害として労災保険の給付が受けられるのでしょうか。
通勤災害になるとならないとで、どんな違いがあるでしょうか。
■ 重要ポイント ─────────────────────────
もし、通勤経路を外れていなければ、牛乳を購入した店の駐車場での事故は通
勤災害と認められる(可能性が高い)が、「逸脱」した店舗で起きた事故は通
勤と認められない。
逸脱してもその後に通常の経路に戻った後の帰宅行為は「通勤」となるので、
仮にケガが自宅近くで転んだなどであれば、通勤災害として保険給付の対象と
なる。
通勤災害と認められれば、私傷病のときより手厚い給付が受けられる。
■ 通勤の定義 ─────────────────────────
「通勤とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路
および方法により往復することをいい、業務の性質を有するもの除くものとす
る。」(労災保険法第7条2項)
■ 経路の逸脱・中断 ─────────────────────────
今回のケースでは、通勤経路を外れていました。
通勤経路からの「逸脱」とは合理的な経路から外れることをいいます。また、
「中断」とは経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいいます。
逸脱および中断の間は通勤とせず、その後の往復についても通勤としないとさ
れています。ただし、逸脱・中断が、日常生活上必要な行為であって、やむを
得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱・中断の間は通勤とし
ませんが、その後の往復を通勤とすることとされています。
■ 日常生活上必要な行為で省令で定めるものとは ─────────────
日常生活上必要な行為とは以下のような行為です。
(1) 日用品の購入その他これに準ずる行為
(2) 職業訓練を受ける行為等
(3)病院又は診療所におおいて診察または治療を受けることその他これに
準ずる行為
(4)要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母ならびに同居し、
かつ、扶養している孫、祖父母および兄弟姉妹の介護
(継続的にまたは反復して行われるものに限る)
■ 日用品の購入その他の行為とは─────────────────────
帰宅途中にスーパーマーケットに立ち寄って惣菜等を購入する場合、また、独
身者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ちよる場合等が日用品
の購入その他の行為に該当します。
また、帰路で書店に立ち寄ることはよくあると思いますが、「日用品の購入そ
の他これに準ずる行為」に該当します。ただ、書店で過ごした時間は最小限度
のものである場合が該当となります。
■ 通勤に付随する「ささいな行為」────────────────────
帰宅途中経路のコンビニで缶コーヒーを購入、駐車上の段差で負傷した場合は
通勤災害になるでしょうか。
通勤経路上のコンビニで缶コーヒーを購入する行為は通勤に付随する「ささい
な行為」とされ、逸脱・中断とはならず、通勤災害となります。通勤経路近く
の公衆トイレを使用する場合、経路近くにある公園で短時間休息する場合、経
路上のコンビニで雑誌等を購入する場合もささいな行為となります。
■ 会社への届け出とは異なる経路の事故は ────────────────
会社では通勤手当の認定や通勤経路の確認のため、通勤経路の届け出を出して
もらっていると思います。電車通勤の人が電車事故のための迂回経路をとった
場合や、マイカー通勤者が事故による渋滞を避けるため、いつもと違った経路
をとった場合の事故は、通勤災害になるのでしょうか。
経路の届出をしているので、それを外れれば通勤とならないのではと思われる
かもしれませんが、極端な迂回でなければ「合理的経路」と考えられ、認めら
れます。
また、健康のため1駅前で下車して徒歩通勤中のケガも、通勤災害と認められ
ます。
■ マイカー通期者が子供の送迎のため迂回した場合は ──────────
共働きの労働者が、託児所、親せき等に預けるためにとる経路などは、当然、
就業のためにとらざるを得ない経路で、合理的な経路となるとされています。
■ 昼休みに帰宅するときに負傷した場合は ───────────────
自宅が近い従業員が昼休みに自宅に往復するときの事故は、通勤災害にも業務
災害にもなりません。休憩時間の私的な行為の事故に労災保険は適用されませ
ん。
■ 客先から直帰する途中の事故は ──────────────────
営業職の社員は客先へ直行したり、直帰したりがよくあると思います。
この場合、自宅から客先へ行く行為、客先から自宅に帰る行為は「就業の場
所」が客先と考えられるので、通勤行為と考えられます。
ただし、支店勤務の営業社員が、会議のために自宅から本社に向かう途中の事
故は、就業の場所への異動ではなく、出張業務のための移動と考えられ、通勤
災害ではなく、業務災害となります。
出張とは、会社が一定の期間に目的地を限って決められた業務を行うことを命
じている行為とされ、出張期間中の行為は原則的にすべて業務とかかわりが深
い(事故が起きれば業務災害)と考えられます。
■ 通勤と認定される・きされないの違い
冒頭の事故は、通勤に関係するささいな行為による事故でしたが、経路を逸脱
した場所であったため、通勤災害とならず、労災保険の対象となりませんでし
た。
ケガの治療は健康保険で行われ、4日以上の休業があれば傷病手当金の請求が
できます。
仮に逸脱がなくて通勤災害と認定されれば、労災保険が適用され、治療費・薬
代の本人負担はなく、休業となった場合は労災保険から休業給付(休業特別支
給金と合わせておよそ8割の所得保障)が治癒するまで受けられます。
■ まとめ ─────────────────────────
通勤の途中で用事を足したり、迂回したりした場合、その行為が「日常生
活の必要から通勤の途中で行う必要」があり、「行為の目的達成のために必要
とする最小限度の時間、距離等」であれば、通勤となり、労災保険が適用され
ます。