お知らせ
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作成日:2016/09/01
★ 研修医の自殺を考える ★



 新潟市民病院に勤務していた30代の女性研修医の自殺について、遺族が8月
17日、新潟労働基準監督署に労災申請したと報道されました。

  (8月18日、新潟日報)

 どのようなことがあって労災申請になったのでしょう。
 労災になるとならないの違いは何なのでしょう。


■ 重要ポイント ─────────────────────────


 過重労働はあってはならないといわれ続けている中で、また身近で悲しい事件
が起きた。

 過重労働による研修医自殺は労災に認定されると思われる。


■ 事件の概要 ─────────────────────────

 研修医は2015年4月から卒後3年目の後期研修医として市民病院に勤務しました。

 彼女の4月から12月までの時間外労働時間は多い月では250時間を超え、平均で
約192時間でした。度重なる休日出勤や深夜の呼び出しで疲弊し、今年1月命を
絶ったといいます。


■ 医師は労働者か ─────────────────────────

 開業医であれば労働者ではありませんが、病院に勤務する医師は労働基準法
の労働者です。労働者とは労務を提供して、賃金を受ける者で、職業の種類を
問いません。高度な専門的知識を持つ医師も、労働時間によって賃金という対
価を受け取る労働者なのです。


■ 労働者の時間管理 ─────────────────────────

 使用者は労働者の労働時間の管理をしなければなりません。法定労働時間を超
えるのであれば時間外労働の協定の範囲で行わなければなりません。病院は労
働時間をしっかり把握していなかったと遺族は主張しています。

 法定の労働時間の倍以上の労働時間が続いていたことが「気力がない」「よく
眠れず、いくら寝ても疲れる」という体調悪化、精神疾患の原因となったよう
です。


■ 精神疾患が労災となるとき(認定基準)─────────────────

 精神障害が労災認定されるための要件は次の3つです。

(1) 認定基準の精神障害を発病していること

(2) 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務
による強い心理的負荷が認められること

(3) 業務外の心理的負荷や固体側要因により初病したとは認められないこ


 上記認定要件のいずれも満たす場合は、業務上の発病として取り扱われます。


■ 発病とは ─────────────────────────

 受診歴のない場合は、監督署が家族、同僚・上司との聞き取りによって、「言
動・勤務状況等の変化等」を把握し、発病の有無を判断します。

 また、受診日(診断書の日付)が発病日ではありません。監督署の調査によっ
て発病日が推定され、その発病前6か月の心理的負荷で判断が行われます。


■ 労働時間の把握の方法は ──────────────────────

 使用者が管理している労働時間が信頼できないものだ、実態と違うということ
はありうることですが、労働基準監督署はどのように労働時間を調査するので
しょうか。

 監督署は使用者が管理している労働時間が実態と異なると判断した場合、以
下のようなことを行います。

(1) 事業主としての労働時間管理方法及び当該記録内容の精査

(2) 被災労働者、職場関係者の聴取における労働時間の実態の申立て内容
の整理

(3) 業務報告書等の記録、パソコン等の稼働時間の記録、事務室等の施錠
管理簿等の記録等の有無及び当該記録内容の精査

(4) 被災労働者以外の複数同僚労働者等の労働時間との比較を行うための
同僚労働者の聴取

 上記のことを行ったうえで、被災労働者の労働時間の推計がなされます。


■ 極度の長時間労働は負荷「強」─────────────────────

 発病前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間に
これと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った
場合は、労災の認定基準上「特別な出来事」と評価され、心理的負荷の総合評
価が「強」となります。

 医師として経験の浅い研修医が強い使命感をもちながらも終わりのない業務
の重圧を感じながら極度の長時間労働を行っていたと推察されます。

 認定基準は、「特別な出来事以外」であっても、「客観的に、相当な努力があ
っても達成困難なノルマが課され、達成できない場合には重いペナルティがあ
ると予告された」ような場合は「強」、また、「通常なら拒むことが明らかな
注文ではあるが、重要な顧客や取引先からのものであるためこれを受け、他部
門や別の取引先と困難な調整に当たった」ような例も「強」と判断されるとし
ています。


■ 業務以外の発病要因はなかったか ───────────────────

 労災の判断に当たっては、業務と全く関係のないことで心理的負荷がかかる出
来事(本人が重い病気やけがをした、配偶者や子供が死亡した、天災や火災に
あったなど)が発病の原因であるかどうかも調査されます。

 精神障害の既往歴やアルコール依存状況などの固体側要因については、その有
無と内容を確認し、発病と関係がないか、慎重に判断されます。


■ 業務の負荷と「自殺」 ────────────────────────

 業務による心理的負荷によって精神障害を発病した人が自殺をした場合は、精
神障害によって、正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的
な抑制力が著しく阻害されている状態に至ったもの(故意の欠如)と推定され、
その死亡は労災認定されます。(認定基準)


■ 労災認定されると ─────────────────────────

 労災認定されると、労災保険からの補償が受けられます。

 遺族にたいしては遺族補償給付があります。妻であれば年齢制限等はなく受
給権者となりますが、夫は60歳以上か一定障害でないと受給権者となれません。
葬祭料の支給はあります。

 労災保険には慰謝料はありません。


■ 裁判になると ─────────────────────────

 労災請求と並行して事業主の過失責任、損害賠償責任等を問う裁判が起こされ
ることでしょう。

 裁判では具体的な勤務状況、過重労働を放置していた実態がわかってくること
でしょう。極度の長時間労働があることを知りながら対策をとらなかった事業
主の責任が問われることになることでしょう。医師不足といわれる中、医師の
勤務実態がどのようなものか、注目されます。

 電通事件(過労自殺の事件。平成12年3.24判決)では、常軌を逸する時間外労
働の実態が明らかにされ、会社が遺族に1億6,850万円を支払い、謝罪すること
で和解が成立しました。


■ 労働契約法では ─────────────────────────

 平成20年施行の労働契約法は、判例を成文化したものですが、第5条を確認し
てみましょう。

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ
労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
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社労士法人アイビーウィル
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