お知らせ
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作成日:2014/10/01
★ 研修費用の返還は? ★



 「会社が費用を負担して資格を取ってもらった従業員が、取得後間もないの
に会社を辞めたいと言ってきました。資格取得の費用を返還してもらうことは
できるでしょうか?」

 資格取得の研修経費は高額のこともあります。
 資格取得後は会社で勤務してくれるだろうと期待して、費用負担し、取得し
てもらった資格なのです。返してもらえるでしょうか。


■ 重要ポイント ───────────────────────────


 業務命令で研修に参加させ資格を取得した従業員が、退職を申し出た場合、資
格取得の費用を会社に返還してもらうことは難しい。

 業務との関連性が低く自己啓発的な研修で、費用の返還に関する定めをきちん
としておけば、返還を請求できる場合がある。


■ 労働者の退職の自由 ─────────────────────────

 従業員として能力や技能を高めてもらうために、会社がお金を出してセミナー
に参加させたり、資格取得の研修に参加させたりということはとても重要なこ
とです。

 また、せっかくそのような費用を支出して将来を期待した従業員が、すぐに退
職するようでは困るので、何とか退職を制限できないだろうか、と考えること
は至極当然なことでしょう。

 一方、従業員には退職の自由があります。退職を不当に制限するようなことは
できません。

 「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予
定する契約をしてはならない」(労基法16条)とあるので、違反がないように気を
つけなければなりません。


■ 賠償予定が禁止された背景 ──────────────────────

 戦前の工場法に、以下の規定があります。

 「工場主は職工の雇い入れに関し・・・違約金を定め若しくは損害賠償額を予
定する契約をなすことを得ず。」

 退職したいのに違約金や損害賠償のお金を払うことができないので、退職で
きない、そんな不幸な歴史、慣行が古くからあり、このようなキマリがありま
した。

 労基法16条はこの規定をそっくり受けています。このような条文は諸外国には
ない日本独自のものといわれています。


■ 損害額に応じて損害賠償を求めることはできる ─────────────

 違約金や損害賠償額をあらかじめ定めておくことは禁止されていますが、労働
者が本来すべき労働契約を誠実に履行しなかったことによって、会社が現実に
損害を被った場合は、その損害額に応じて賠償を請求することは認められてい
ます。


■ 法律違反となる場合 ─────────────────────────

 業務命令で研修をさせ、研修後の労働者を自企業に確保するために一定期間
の勤務を約束させる(そしてその違約を定める)という実質のものである場合は、
違反となります。

 業務の必要経費であって、業務に必要な研修として命じたものであれば、研修
後ある年数勤めることを強制することは労基法の賠償予定の禁止規定に触れる
ことになるのです。

 たとえば、美容師見習が、「勝手に退職した場合には、採用時にさかのぼって
1か月4万円の美容指導料を支払う」という約定は、退職の自由を不当に制限す
るもので、賠償予定の禁止に違反するとされています。


■ 法律違反とならない場合 ───────────────────────

 最近は経済のグローバル化ということもあって、会社が従業員を海外留学させ
ることもあります。留学後の費用の返還や転職予防の規定が、賠償予定の禁止
に当たるのではないかと裁判になったりしています。
 立法の時には予測していなかったような状況が、この条文の違反か否かの判断
を迫っているのです。

 海外留学に関して、裁判で返還が認められているのは以下のような場合です。

(1)本来本人が費用を負担すべき自主的な研修であること

(2)研修費用は貸与するものであるが、研修後一定期間勤務すればその返
  還を求めないとするものであること

 一般に、資格取得費用は、業務に必要だからという理由で会社が負担して
いると思います。
 業務との関連性が薄い自己啓発的な研修でないと費用の返還は難しいと考
えられます。


■ 教育研修の目的を明確に ────────────────────────

 就業規則の相対的必要記載事項(定めをするならば書いておかなければならな
いこと)に「職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事
項」(労基法89条7号)があります。

 就業規則には教育研修の章を設け、研修について従業員に周知しておくべきで
はないでしょうか。


■ 教育研修規定 例 ───────────────────────────

1 会社は、従業員に対し、技能や知識教養を向上させるため、必要な教育・研修
 を行う。
2 従業員は、会社が行う教育研修を拒むことはできない。
3 教育・研修受講後は身につけた技能・知識を積極的に業務に反映させなけ
 ればならない。


■ 自己啓発研修規定 例 ────────────────────────

1 会社は、従業員が自主的に、教養を高めるなどの目的のために外部の教育研修
 期間で教育研修を受けたいと申し出た場合、その研修の目的、勤務経験、会社
 が今後その従業員に期待する職務などを総合的に勘案し、その費用を貸与する。
2 研修に関する貸与金は無利子とし、返還については以下とする。
    資格取得後の勤務期間1年未満・・・免除割合20%
    資格取得後の勤務期間2年未満・・・免除割合50%
3 貸与の後3年以上勤務した場合は、貸与金の返還を免除する。


■ 高額な研修費用であっても ─────────────────────

 「本人が資格を取りたいといってきたので、会社は許可し費用を負担した。会
社が無理に取得しろと言ってはいない。この資格は汎用性のある資格で、履歴
書にも記載できる一生モノの本人に大きなメリットのある資格だ。今まで資格を
取って間もないうちに退職した従業員はいなかった。」

 そうであっても、返還を求めた場合、納得してもらうことは難しいでしょう。


■ まとめ ───────────────────────────

 高額な費用の研修受講に当たっては、教育研修の意義をきちんと伝えよう。

 自己啓発的な研修であれば、研修費用は貸与であるとし、あらかじめ貸与の契
約書を取り交わしておくことも検討されてよい。
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